【実践コラム】成長のスピードは資金から逆算する
…目標は意欲で決まりますが、上限は資金が決めます。
多くの会社で、来期の売上目標は意欲から決まります。前年比120%、あるいは3年で2倍。社長の決意として掲げられる数字は、事業を前に進める力になります。ただ、その目標をどこまで本当に実現できるかを決めているのは、意欲ではなく資金です。これまで、成長するほど資金が必要になるという構造に始まり、増加運転資金の求め方と手当ての順番、そして戻ってこない固定費との違いまでを見てきました。まとめとなる今回は、一連の話を1つの計算に収めたうえで、これまでとは逆の向きで計算を進めてみます。
これまでは、売上計画から必要な資金を求めてきました。年間1億円を売るA社に1,600万円が寝る、売上が1.5倍になれば800万円が追加で要る、という計算です。今回は逆に、用意できる資金から、どこまで売上を伸ばせるかを求めます。
鍵になるのは、売上1円あたりに寝る資金の割合です。A社は1億円の売上に対して1,600万円が寝ていますから、割合は16%になります。売上を1,000万円増やすごとに、160万円の資金が新たに必要になるということです。この割合が分かれば、伸ばせる売上は簡単な割り算で出ます。成長に回せる資金を、この割合で割るだけです。
A社が、基準となる手元残高を守ったうえでの余剰と、新たに借りられる金額を合わせて、1,000万円を成長に回せるとします。1,000万円を16%で割ると、およそ6,250万円。これが、A社が資金繰りを崩さずに上積みできる売上の上限です。売上で言えば1億6,000万円あたりが、いまの資金で安全に目指せる水準になります。意欲として2億円を掲げるのは自由ですが、資金の手当てがないまま2億円に向かえば、1億6,000万円を超えたあたりで、先に資金が尽きます。
ここに、戻ってこない支出が加わると、上限はさらに下がります。採用や倉庫の移転で年間520万円の固定費が増えるなら、売上が定着するまでの間、その固定費は成長に回すはずだった同じ財布から出ていきます。仮に1,000万円のうち520万円が固定費に回れば、残りは480万円、伸ばせる売上は3,000万円ほどに縮みます。固定費を増やす判断が、成長の上限をどれだけ引き下げるのかを、この計算は目に見える形にしてくれます。
ただし、この上限は固定されたものではありません。動かせます。1つは、寝る資金の割合そのものを下げることです。回収条件を45日から30日に縮めてA社の寝る資金が1,200万円になれば、割合は12%に下がり、同じ1,000万円で伸ばせる売上は8,300万円ほどに広がります。条件の見直しが、資金を浮かせるだけでなく、成長の天井を押し上げる効果を持つことが分かります。もう1つは、成長に回せる資金そのものを増やすことです。増加運転資金という明確な使途で借入を組めれば、成長に回せる資金そのものが増え、目指せる売上の水準も上がります。
資金から成長のスピードを決めるというのは、成長を諦めることではありません。いまの資金で安全に行ける上限を先に知り、そのうえで、上限を押し上げる手を打つことです。上限を知らずに走る会社は、どこで資金が尽きるかが見えないまま加速します。上限を知っている会社は、どこまで加速してよいか、どこで資金を補充すべきかが見えています。
来期の目標を決めるとき、意欲の数字と並べて、資金から逆算した上限の数字も置いてみてください。2つの数字の差が、来期に手当てすべき資金と、見直すべき取引条件の大きさを教えてくれます。目標は意欲で掲げ、上限は資金で確かめる。この2つを両方持つ会社が、成長の勢いを資金繰りの不安に変えずに、伸び続けることができます。
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