【経営コラム】賞与の給与化!(その1)
…「月給が低い会社」は、採用で選ばれにくくなる?
人が採れない。採用しても定着しない。求人を出しても応募が来ない。多くの中小企業経営者が、いま直面している問題です。
もちろん、原因は給与だけではありません。しかし、人手不足が続くなかで、社長が改めて考えるべきテーマがあります。
それが、「給与の総額」だけでなく、「給与の払い方」を見直すことです。
そこで注目したいのが、「賞与の給与化」です。これは単純な賃上げの話ではありません。賞与として支払ってきた金額の一部を毎月の給与へ振り替え、年収を大きく変えずに月給を厚くするという考え方です。
年収400万円でも、社員からの見え方は違います。
たとえば、月給25万円、年間賞与100万円の社員がいるとします。
25万円×12か月+賞与100万円=年収400万円です。
これを月給30万円、賞与40万円に変えたらどうでしょう。
30万円×12か月+賞与40万円=年収400万円。
年収は同じです。しかし社員にとって、「月給25万円の会社」と「月給30万円の会社」では、受け止め方が違います。
毎月5万円の差は大きい。住宅費、教育費、ローン、日々の生活費などを考えれば、毎月確実に入ってくる給与が増えることは、社員の安心につながります。
採用時にも同じです。求職者は「年収」だけを見ているわけではありません。求人票に書かれた「月給」も会社選びの重要な材料になります。ならば社長は、こう考える必要があります。「同じ400万円を払うなら、どう払えば社員にとって魅力的なのか?」給与制度も、人材戦略の一つなのです。
大企業の制度ではなく「考え方」を参考にしましょう。
実際、大企業でも月例給与を重視する動きが見られます。
- CTC(伊藤忠テクノソリューションズ)は2023年の制度改定で、月例給を最大約30%引き上げました。その際、年収については改定前後で同水準となるよう賞与水準を変更しています。
- 大和ハウス工業も2025年4月、月例給与と賞与の比率を大きく見直しました。同社の場合は賃上げそのものも含まれているため単純な賞与の振り替えではありませんが、「毎月の給与を厚くする」という方向性は共通しています。
- また、ソニーグループの正社員の賞与は年1回とされています。
中小企業がこうした大企業の制度をそのまま真似する必要はありません。見るべきなのは、制度そのものではなく「設計思想」です。つまり、「安定して支払う部分は月給へ。成果や業績によって還元する部分は賞与へ」という考え方です。
そもそも、その賞与は本当に「賞与」なのか?
ここで社長に考えていただきたいことがあります。
「わが社の賞与は、何のために払っているのか?」
毎年ほぼ同じ時期に、ほぼ同じ金額を支給している。会社も支給することを前提に資金を準備し、社員も受け取ることを前提に生活設計をしている。そうであれば、賞与という名前で支払っていても、実態としては「年収の一部」になっているかもしれません。ならば一定部分を月給へ移し、残った賞与を本来の意味での「業績・成果に対する還元」として再設計する。これは一つの考え方です。
ただし、ここまで読むと、「それなら賞与を月給に変えればいい」と思われるかもしれません。しかし、経営者として最も重要なのはここからです。社員にとって毎月の安心が増えるということは、裏を返せば、会社が毎月必ず負担する固定人件費が増えるということです。賞与には、制度や労働契約等による制約はあるものの、業績に応じて支給額を調整できる余地があります。一方、月給は業績が悪くなったからといって、簡単に下げられるものではありません。つまり賞与の給与化とは、社員が負っていた「所得変動リスク」の一部を、会社が引き受けることでもあるのです。だから、議論を「賞与をなくすか、残すか」で終わらせてはいけません。
社長が考えるべき問いは、もっと経営的です。
「年間人件費のうち、どこまでを固定費として会社が引き受けるのか?」これが本当の論点です。
では、実際に社員30人の会社で賞与を月給化すると、会社のリスクはどれくらい変わるのでしょうか。
次回は具体的な数字を使って、「賞与の給与化」を経営者の目線から検証します。
…次回号に続く
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