【実践コラム】増加運転資金の考え方について
…売上が伸びるより先に資金は出ていきます。
前回は、成長は資金繰りにとって追い風であると同時に負荷でもある、という話をしました。今回は、その負荷の正体である増加運転資金という考え方を、A社を例に具体的に整理します。
まず、運転資金という言葉を、もう一段分解します。事業を回すために常に必要な運転資金があり、これはこれまで見てきたとおりです。A社であれば、1億円の売上を回すために常時1,600万円が寝ていました。ここで注目したいのは、売上が増えたときに、この必要額がどれだけ上乗せされるかという部分です。この上乗せ分を、増加運転資金と呼びます。
A社の売上が1億円から1億5,000万円へ、5割増えたとします。取引条件が変わらなければ、寝る資金も5割増えて、1,600万円から2,400万円になります。差額の800万円が、増加運転資金です。売上を5,000万円伸ばすために、800万円の資金が追加で必要になる、ということです。この800万円をどこから用意するかを考えないまま売上だけ伸ばすと、資金は確実に足りなくなります。
ここで重要なのは、増加運転資金が必要になるタイミングです。売上が伸びる前に、資金は先に出ていきます。売上を増やすには、まず仕入れを増やさなければなりません。A社は現金先出しですから、増やした仕入れの代金は、すぐに手元から出ていきます。そして、その商材が売れて、さらに入金されるのは最大45日後です。つまり、支出が先、入金が後、という時間差が、売上を伸ばす局面ではさらに大きく開きます。
この時間差こそが、成長局面で資金が薄くなる直接の原因です。増やした仕入れの代金は今すぐ出ていくのに、それが現金として戻ってくるのは1か月から2か月先になる。売上が伸びている実感と、手元の現金が薄くなる現実とが、同時に進みます。帳簿の上では絶好調に見えているのに、預金残高だけが不安になっていく。成長局面の資金繰りは、この感覚のずれとの戦いでもあります。
そして、増加運転資金は売上が伸び続ける限り、繰り返し発生します。1億5,000万円で落ち着けば、必要なのは一度きりの800万円で済みます。しかし、さらに2億円を目指すなら、そこでまた追加の資金が必要になります。成長を続けるということは、増加運転資金を継続的に用意し続けるということでもあります。伸びれば伸びるほど資金が要る、という前回の話は、この増加運転資金として具体的な金額になって表れます。
だからこそ、成長を計画するときは、売上の計画と一緒に、増加運転資金の計画を立てておくことが欠かせません。次にどこまで伸ばすと、いくらの資金が追加で必要になるのか。その金額を、いつ、どうやって用意するのか。売上目標の裏側に、必ず資金の目標を置いておく。この備えがあるかどうかで、成長が事業を強くするか、資金繰りを崩すかが分かれます。
次回は、この増加運転資金を実際にどう手当てするか、自己資金と借入のバランスや、手当てのタイミングについて整理していきます。
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