【経営コラム】賞与の給与化!(その2)
…「年収総額が同じだから大丈夫」は、本当か?
前回、賞与の一部を毎月の給与へ振り替える「賞与の給与化」について考えました。月給を厚くすれば、採用面での見せ方が変わり、社員の生活も安定しやすくなります。しかし、社長としてはメリットだけを見て判断するわけにはいきません。ここで必ず押さえておきたいのが、「年収総額が同じでも、会社が負うリスクは同じではない」ということです。
■社員30人の会社を例に考えてみましょう。
賞与4か月のうち、2か月を月給にすると?
社員30人、平均月給30万円、年間賞与4か月分とします。
1人当たり、月給30万円×12か月+賞与120万円=年収480万円。
30人ですから、年間給与総額は1億4,400万円です。
ここで賞与4か月のうち2か月、つまり1人60万円を月給へ振り替えます。
60万円÷12か月=5万円ですから、月給30万円→35万円になります。その代わり賞与は、120万円→60万円になります。年収は480万円のままです。会社全体の年間給与総額も1億4,400万円で変わりません。「だったら会社としては同じではないか」と思うかもしれません。しかし、ここに落とし穴があります。
■1,800万円が「固定部分」に移る
従来、30人分の毎月の給与は900万円でした。
月給化後は1,050万円になります。毎月150万円増えます。
年間では、150万円×12か月=1,800万円。
つまり年間給与総額は同じでも、1,800万円が賞与から月給へ移り、固定的に支払う部分が増えたことになります。この違いは、会社の業績が順調なときには目立ちません。問題は、売上や利益が落ちたときです。
■業績悪化時、900万円の差が出る
仮に、業績悪化時に賞与を50%減額できる制度・状況だったとしましょう。従来型なら、年間月給1億800万円+減額後賞与1,800万円=1億2,600万円。一方、月給化後は、年間月給1億2,600万円+減額後賞与900万円=1億3,500万円。その差は、900万円。ここで大切なのは、「月給化すると900万円損をする」と考えないことです。この900万円は、見方を変えれば、これまで社員側が負っていた所得変動リスクを会社側が引き受けた金額です。つまり、社員の安心を増やす代わりに、会社の固定費リスクが増える。これが賞与の給与化の本質です。
■「全部月給」か「従来のまま」かではない
では、中小企業はどうすればよいのでしょうか。答えを「賞与を全部月給にする」「何も変えない」の二択にする必要はありません。たとえば、賞与の一部だけを月給化する。あるいは、「月給+一定賞与+業績連動賞与」という二階建てにする方法もあります。社員に一定の安心を提供しながら、会社にも業績変動へ対応する余地を残すわけです。特に中小企業では、この「一部月給化」や「二階建て型」は検討に値するでしょう。
■給与制度は「経営戦略」である
社長に確認していただきたいポイントがあります。求人を出しても応募が少ない。競合より求人月給が低い。若手が採用できない、定着しない。賞与は毎年ほぼ同額で、事実上固定化している。こうした会社なら、給与の払い方を見直す余地があります。
一方で、業績変動が激しい会社や資金繰りの季節変動が大きい会社が、安易に固定給を増やすのは慎重であるべきです。また、実際の制度変更では、割増賃金、社会保険、退職金、各種手当、就業規則・賃金規程などへの影響も確認する必要があります。
だからこそ、社長が最後に考えるべき問いは、「賞与をなくすか?」ではありません。「わが社は年間人件費のどこまでを固定費として背負えるのか?」です。採用力を上げたい。社員を定着させたい。社員の生活を安定させたい。しかし同時に、会社は業績悪化にも耐えなければならない。
◎採用力 × 定着力 × 社員の安心 × 固定費 × 業績変動リスクこのバランスの中で、自社にとっての「固定給と変動給の最適な割合」を決めてください。
賞与の給与化は、単なる給与計算の変更ではありません。「人を採り、守りながら、会社も守る」ための報酬戦略です。人手不足が当たり前になった今だからこそ、自社の給与制度を「昔からこうしているから」ではなく、経営戦略として一度見直してみてはいかがでしょうか。
※実際に給与・賞与制度を変更する場合は、社会保険労務士等の専門家と、就業規則・賃金規程、割増賃金、社会保険等への影響をご確認ください。
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